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第8話 砕けたクッキー

Author: 月歌
last update Last Updated: 2025-04-04 16:19:46

◆◆◆◆◆

セドリックの背後には、秋風に揺れる木々の影が長く伸びていた。影は静かに揺らめき、地面に複雑な模様を落としている。

彼は一度も振り返ることなく、足早に邸内へと消えていった。

その姿を見つめるヴィオレットの胸には、苦々しい感情が渦巻いていた。影とともに消えゆくその背中が、彼女には手の届かない何かの象徴のように思えた。

「……どうして?」

ーーどうして自分は、この男を好きになったのだろうか。

ヴィオレットはセドリックと出逢った王城の舞踏会を思い出していた。

見目麗しい貴族たちが次々と彼女をダンスに誘いに来た。だが、それは彼女を揶揄するためのものだった。王族と兄以外とは踊らない"行き遅れ"の娘として、興味本位で近づいてきただけなのだ。

――そんな下品な考えを持つ人たちの手を取って踊るなんて、ありえない。

ヴィオレットはそう思っていた。

けれど、セドリックに誘われたとき、彼女は自然とその手を取っていた。彼の手の温もりに引かれるように舞い、見事なステップで彼に負けじと踊った。鮮やかで優雅なその姿は、舞踏会の花となっていた。

踊り終えたセドリックが、汗ばむ額の髪をかき上げながら「じゃじゃ馬な姫様だな」と微笑んだ。その瞬間、ヴィオレットは確かな運命を感じたはずだった。

だが、今となっては――。

「母上!母上!」

「……リリアーナ?」

娘の声でヴィオレットは現実に引き戻された。セドリックが踏み潰したクッキーを、痛めた手で黙々と拾い集めていた自分に気が付く。

なんて情けないことだろう。

「リリアーナ、ごめんなさい。悲しい思いをさせてしまったわね」

彼女は娘の泣き顔に胸を締め付けられる思いだった。

「母上……」

リリアーナの姿を見て、ヴィオレットは自分を叱りたくなる。母親である自分が、娘に気遣わせるなんて最悪だ。

ゆっくりと立ち上がり、リリアーナの髪を優しく撫でる。そして少し離れた場所で様子を伺う使用人たちに目を向けた。その視線を受け、彼らはすぐに動き出す。

「奥様、治療を致します」

侍女が駆け寄ってくるのに、ヴィオレットは頷いて答えた。

「リリアーナと一緒に自室に戻るわ。治療は自室でお願いする。それと、このクッキーはもう食べられないから処分してちょうだい。リリアーナ、それでいい?」

「伯父様とまた作るから大丈夫。母上、早く部屋に行こ」

リリアーナは涙を拭きながら母の手を取
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